我が国経済・社会の発展及び国民生活の質の向上のために港湾が果たすべき役割や、今後特に推進すべき港湾製作の方向性をとりまとめた港湾の中長期政策「PORT2030」。本書は、このPORT2030を具現化するにあたり、港湾と空港に係る国土交通省の政策担当者と研究者からなる、「港湾・空港領域の政策課題検討の官学交流プラットフォオーム」研究会におけるさまざまな提言を一冊にまとめたものである。
コロナ禍によって、日本の物流は大きな影響を受けました。特に海運業界においては、巣ごもり需要による物流量の急増にもかかわらず、深刻なコンテナ不足や労働力不足が発生し、スケジュール通りの対応が難しくなってしまいました。コンテナは世界中で使い回すので、港での作業が滞ればその分次に回すことができなくなり、コンテナ不足が発生してしまうのです。
荷役がスムーズに進むためには、港の整備が必要です。国土交通省港湾局は2018年、2030年頃を見据えた日本の港湾の中長期構想「PORT2030」を発表しました。日本の経済・社会の発展や国民生活の質の向上のために、今後の港湾はどんな役割を果たすべきか、今後推進していくべき港湾政策はどのようなものかをまとめたものです。
今回ご紹介する『「みなと」のインフラ学』は、日本を外の世界につなぐインフラかつ、新しい産業革命を先導するプラットフォームとなりうる港湾について、物流、観光、資源、ITといった様々な角度から考察しています。後半ではより具体的に、日本の地方港湾の取り組み事例を紹介し、地域独自の政策についても提案を行っています。
港湾の現状を検証して課題を掘り起こし、PORT2030の概要を踏まえて改善提案を行い、現在の取り組みを紹介する中で、近未来の「みなと」の姿が見えてくるのではないでしょうか。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『「みなと」のインフラ学 ーPORT2030の実現に向けた処方箋ー』はこんな方におすすめ!
- 自治体の港湾関係者
- 海運業、物流業に従事している方
- 海運業を目指す学生
『「みなと」のインフラ学 ーPORT2030の実現に向けた処方箋ー』から抜粋して3つご紹介
『「みなと」のインフラ学』からいくつか抜粋してご紹介します。本書は最初にPORT2030策定の背景と経緯、続いて日本の港湾政策とPORT2030の関係について解説します。その後様々な角度から日本の港湾の現状分析を行い、後半は日本の個別の港湾の取組みを紹介します。冒頭には用語集もついていますので、略語等の確認もできます。
海運インテグレーターの出現と港湾に求められるサービスの変化
最近、国際海上コンテナ輸送の世界に大きな変化が生じています。コンテナ船社の垂直統合が、コンテナ物流に携わる業種全体に大きな影響を及ぼしているのです。さらに、グローバルサプライ・チェーン全体をカバーした貿易貨物情報プラットフォームの開発が実用段階に達し、大手コンテナ船社をはじめとした関係業種・団体が次々に参加を表明しています。これらの出来事は、今後の港湾政策を論じるうえで避けて通れない課題です。
1.コンテナ船大型化に伴う船社アライアンスの集約に伴う影響
超大型コンテナ船の登場に伴い、コンテナ船建造の投資リスク、十分なコンテナ貨物需要を確保する需要リスクなどを分散するため、コンテナ船社は複数社でアライアンスを構成し、現在は3つのアライアンスに集約されました。
このことで船社は寄港する港湾を選ぶときに、有利な契約条件を引き出すことができるようになりました。逆に港湾側は、契約交渉において不利な立場に追いやられました。
2.船社系ターミナル・オペレーターの存在感の増大
船社が自ら運営する船社系ターミナルは、自社のコンテナ取扱いに最大限の便宜を図ってきました。そのため、船社グループ側から見ると利益を生み出すものではないと認識されていました。
コンテナ船の大型化により、コンテナ船社は海上輸送の長期化、到着遅れのリスク増大という輸送サービスの劣化に直面しました。
しかし船社系ターミナル・オペレーターは、遅れが発生した場合のリカバリーや、コンテナ個別の事情を考慮した柔軟なサービスを提供することで自社の輸送サービスを高付加価値化できることが再評価され、近年では急速に存在感を増しています。
3.海上輸送から内陸へ向かうコンテナ船社の戦略
海運インテグレーターとは、自社でコンテナ船を所有してコンテナ定期船サービスを提供するとともに、自社の倉庫を活用して自社のトラックで集荷配送サービスまで提供することによって、内陸背後圏の荷主に対して直接マーケティングまでを行う複合一貫輸送サービスを提供する事業といえます。
港から港までの輸送サービスだけでは質の差別化が難しかったコンテナ船社は、顧客から顧客までのグローバルサプライ・チェーンの輸送サービスを提供することで収益の改善を図ろうとしています。サービス展開の過程で顧客に直接働き掛けることによって、垂直統合を果たした海運インテグレーターは、より付加価値の高いサービスを提案することができるようになったのです。
4.貿易貨物情報プラットフォームに参加するコンテナ船社
トレードレンズ(TradeLens)は、ブロックチェーン技術を活用し、電子化された貿易手続き書類をリアルタイムで把握することができる情報プラットフォームで、既に実用段階に入っています。
これを活用すれば、ロジスティクス業務の効率を飛躍的に高めることが可能になります。 たとえば、内陸背後圏の荷送人、荷受人に対するマーケティング活動を通じて需要を集約し、複数の輸送モードを組み合わせた複合一貫輸送サービスで高付加価値輸送サービスを実現することができます。
5.海運インテグレーターの出現とコンテナ船大型化の行方
コンテナ船の大型化によって、「ピーク」(定期船の寄港スケジュール中のコンテナ取扱量の変動のピーク)に起因する極端な混雑等がグローバルサプライ・チェーンのあらゆる局面で引き起こされ、経済活動に影響を及ぼしています。
大手コンテナ船社は、これ以上大型のコンテナ船建造の可能性については否定的です。その理由として、荷主が求める低コスト、高頻度、早いトランジットタイムに対応しきれなくなることが挙げられています。
そのため、船舶の大型化の傾向はしばらくの間は停滞するものと考えられています。
コンテナ船の大型化によって、業界の再編、港から港だけではなく内陸輸送までを一本化した「海運インテグレーター」の出現、また負の影響として混雑や遅延などが起こりました。今後はアジア地域内での国際水平分業に伴い、部品などを遅れなく運ぶため、中型コンテナ船によるサービスが求められると予想されています。港の側でもそれに対応できるよう、港湾そのものの利便性と併せて道路や倉庫においても混雑が起こらないよう改善されなければなりません。
内航RORO/フェリーへのモーダルシフトの可能性
自動車輸送から海上輸送、鉄道輸送へのモーダルシフトの呼びかけは何度も行われてきました。しかし、海上輸送へのモーダルシフトはそれほど進んではいません。理由としては、海上輸送のロットが大きすぎること、高い水準の輸送サービスを求められる製品や多頻度の小口輸送はトラックが向いていること等が挙げられています。
しかし、トラック輸送のドライバー不足により、国内貨物輸送が維持できなくなる危険性もあります。また、鉄道網は自然災害の影響を受けやすいため、大規模災害で障害が生じれば自動車や船舶での輸送の需要が急増します。
単一の輸送モードに依存することのリスクが認識されたため、海上輸送の必要性が再認識されました。しかし、海上モーダルシフトの推進にあたっても、多くのボトルネックを取り除く必要があります。
まず、船舶を停泊させるために適切な岸壁、シャーシヤードのスペースが不足している問題があります。コンテナのように縦積みができないRORO/フェリー輸送では、多くのスペースが必要です。スペース不足は、新規就航や大型化を進めていく上でのネックにもなります。ふ頭再編による国際コンテナターミナルと内貿ユニットロードターミナルの近接化、道路等とのシームレスな接続といった施策も併せて行われることが望まれます。
スペース以外については、航路の拡充や大型化促進のため水深や岸壁の高さについても整備を進めていく必要があります。水深や岸壁の高さが確保されないと、ランプウェイの角度が急になってしまうため、貨物の崩れや揺れの増加、輸送品質の低下にもつながります。これらの整備は全国一律の基準に基づくものよりも、港や岸壁ごとに航路の利用状況を踏まえた政策対応がとられることが望ましいでしょう。
また、港湾内でのシャーシの取り回しを迅速化することで、取扱可能なシャーシ数を増やすことも不可欠です。そのためには、内航輸送手続きの電子化とそれによるデータの整備は大きな意味を持つと考えられます。このデータ整備により、適切なスケジューリングによる効率的な荷役活動や需要予測等も期待できます。
現在、内航海運における雑貨製品輸送の中心は RORO/フェリー輸送です。RORO/フェリー輸送の促進による海上輸送へのモーダルシフトは、国内物流の効率化という観点からも注目に値します。
以前SNSで、海運関係者による「日本の港は浅すぎる。大きい船が入れないままだと、アジアから取り残されてしまうのではないか」という呟きを見たことがあります。効率的な荷役作業のためのスペースも重要ですが、港の機能を上げるためには十分な深さや岸壁の高さも必要なのですね。また、トラックドライバーの不足や高齢化も大きな問題ですが、海運業も同じ課題に直面しています。人材育成と定着促進はどこでも悩みの種です。
日本の港湾におけるICT活用の考え方
日本の港湾におけるICTの活用は、1998年以降主にコンテナ輸送の分野で本格化しました。国土交通省港湾局が1999年に運用開始した港湾EDIシステムは、のちにNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)と統合され、港湾手続きのワンストップサービスへと発展しました。
しかしその一方で、日本の港湾では依然として多くの紙媒体での情報が飛び交っています。港湾における貿易等諸手続きの電子化の遅れは根本的な課題とされ、政府は港湾の電子化(サイバーポート化)を進めています。
サイバーポートにおいて構築される港湾関連データ連携基盤は、すでに個別に稼働している港湾業務システムや、NACCS等の港湾手続きシステムに対する相互接続サービスの提供を通じて、港湾運営全般をカバーする総合的かつ柔軟なビジネスプラットフォームの形成を図るものです。
また、自社の過去の取引情報や港湾において生成される様々な情報をビッグデータ化することを通じて、業務改善や港湾の効率化だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出につなげることも可能です。港湾関連データ連携基盤は、こうしたビッグデータをもとに、AIを駆使したより高度で生産性が高いスマートポートを形成することを目指しています。
2005年頃から、世界各地で自動化コンテナターミナルが整備されるようになり、2010年以降急速に増加しています。
コンテナターミナルでは、完全な機械化・自動化が可能な作業と、人力に頼らざるを得ない作業、人による遠隔操作が必要な作業が共存しています。これらの同期化が荷役効率を決定づけます。ターミナル全体の動きを最適化するミドルウェアと呼ばれるソフトウェアが、自動化ターミナルの効率性のカギとなるのです。また、GPSやモニタリングカメラ、AIS(自動船舶識別装置)等の技術をAIと組み合わせることによって、ターミナル運営に新たな可能性がもたらされます。
AIは大量の情報を瞬時に処理することができ、長時間稼働しても効率性が変わらないので、本船荷役やターミナルの一体的な管理と運営の最適化を休みなく行うことができます。AIは今後ますます多様化し複雑化する港湾利用ニーズに的確かつ迅速に対応していくうえで、ターミナルオペレーターの頼もしいパートナーとなるでしょう。
IoTやビッグデータを駆使しAIを司令塔とするスマートな港湾ターミナルは、今後港湾運営の主流となると思われます。しかし、日本の経済社会システムにAIやIoTを組み込んで有効に機能させるためには、以下のことを考慮する必要があります。
1.ICTによって日本の港湾は「儲かる」ビジネスの場となりうるか
2.港湾におけるICT採用により、自然災害や人為的災害に対する脆弱性が高まるが、どう対処すべきか
3.港湾運営の判断・意思決定において、ヒトとAIはどのような役割分担をすべきか
4.港湾におけるビッグデータやAIは、誰が所有・管理し、どのように共有化し、活用すべきか
5.ICTのさらなる導入・活用に伴い、労働再配分はどのように進められるべきか
上記のような課題は、港湾ビジネスの現場でAIをはじめとするICTが自在に駆使されるようになるまでの様々な作動環境整備の必要性を示唆しています。
日々の港湾業務をビッグデータ化し、AIが行った分析に基づいて最適なオペレーションを行うということが実現すれば、日本の港湾の処理能力は大幅に上がるでしょう。また、AIはこれまで熟練の労働者が勘で行ってきた業務を標準化し、継承していくことにも役立ちます。人から仕事を奪うというより、人が行う作業をより安全に負担の少ないものにすることにも貢献してくれることを期待します。
『「みなと」のインフラ学 ーPORT2030の実現に向けた処方箋ー』内容紹介まとめ
2018年、国土交通省港湾局が発表した港湾の中長期構想「PORT2030」。これからの日本の社会・経済の発展において港湾はどのような役割を果たすべきか?PORT2030の概要を解説しつつ、港湾の様々な可能性と取組みを紹介します。
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人を運ぶ!ものを運ぶ!「みなと」の役割を学ぶ!3選
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『クルーズポート読本』
クルーズ船誘致を目指す自治体関係者必見!クルーズ船を迎えるにあたって、実現すべきことは何か?クルーズ船の歴史や基礎知識、業界の動向と今後の課題等を概観し、国土交通省によるガイドラインも詳解します。
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『日本のコンテナ港湾政策』
近年国際競争力の低下している日本の港湾。世界に対抗するには何が必要なのか、官民はどのように協力すべきか?これまで日本の港湾政策の大きな柱であったスーパー中枢港湾プロジェクトと国際コンテナ戦略港湾政策の特徴と問題点を特に検証し、その課題を提起します。
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