著者名: | 青木 亮 編著 |
ISBN: | 978-4-425-92961-0 |
発行年月日: | 2020/8/28 |
サイズ/頁数: | A5判 252頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥3,520円(税込) |
自動車の普及や少子高齢化・人口減少を拝啓に困難さが増す地方公共交通。その維持のために地域各地で実施されている創意工夫の取組みを紹介・分析した活性化に向けて示唆となる一冊。
【序】
自家用車普及の進展や少子高齢化と人口減少などを背景に、平成、令和の時代に入っても営利事業としてのバス路線維持は困難さを増しており、中山間地における交通手段の確保は、重要な政策課題のひとつとなっている。参入規制や料金規制などを緩和する乗合バス事業への規制緩和政策が導入されてから、既に20 年近い年月が経過しており、この間に地域の実情に合わせた効率的な新サービスを後押しする制度的仕組みは様々な形で整えられてきた。国の施策として幹線系路線やフィーダー路線を維持するための補助制度や地域公共交通網形成計画による総合的な交通計画の策定、自治体による独自の支援策などを通じて、各地で公共交通サービスを運行、維持する仕組みが構築されている。また事業者においても、新たな地域需要を誘発する取組みや観光客輸送に活路を見いだす動き、貨客混載の試みなど、民間事業者の創意工夫を活かして取り組まれている事例は全国で数多い。この他にも、デマンド交通やタクシー車両の利用、住民による自主的な交通サービス運行など、地域特性を活かした創意あふれる取組み事例は多々ある。
本書は、各地の事例を分析して、全国的視野から評価し、位置づけることで、地域公共交通の維持策、活性化に向けて示唆を与える書となることを目指している。地域交通問題は、生活と密接な関係を持つため、多くの人にとり関心の高いテーマと言える。日本交通政策研究会の我々のグループでも、10 年以上にわたり公共交通の維持問題を主たるテーマに研究を続けてきた。その一方、交通問題は地域性が強く表れる分野でもある。ひとつの地域で導入された試みが、他地域でも同様の成果を生むとは限らない。ただし各地の事例を長年にわたり数多く研究し続けてきたことで、ある種の一般法則、傾向も明らかにできたのではないかと考える。本書で取り上げた事例は必ずしも有名なものに限定していないが、それぞれが参考とすべき特徴を持っている。
本書では、コミュニティバス、乗合タクシー、デマンド交通(デマンドバス、デマンドタクシー)、自家用有償運送などの用語が多くの章に出てくる。
以下で定義を示す。コミュニティバスとは、国土交通省の「コミュニティバスの導入に関するガイドライン」では、「交通空白地域・不便地域の解消等を図るため、市町村等が主体的に計画し、以下の方法により運行するものをいう」とされており、「(1)一般乗合旅客自動車運送事業者に委託して運送を行う乗合バス(乗車定員11 人未満の車両を用いる乗合タクシーを含む。)(2)市町村自らが自家用有償旅客運送者の登録を受けて行う市町村運営有償運送」と定義される。コミュニティバスは、国土交通省編『交通政策白書2018』によると、2016 年度には1,281 市町村で3,242 路線が運行されている。上記のように国土交通省が定義するコミュニティバスは、乗合タクシーを含む概念である。
一方、中山間地等で特に需要が少ない路線では、マイクロバスなど比較的小型のバス車両を用いる例が多いが、それでも輸送力過大になりやすい。そのため車両の乗車定員が11 人未満で、普通免許で運転可能なワンボックス車やセダン型車両など、より小型の車両を利用する場合もある。このようなサービスを乗合タクシーとして区別することが便宜上行われており、本書もそれに従う。なお2007 年に道路交通法が改正されて中型免許が新たに導入されたことで、車両重量11 t 未満で乗車定員11 人以上(29 人以下)のワンボックス車を利用するようになった場所もあり、この場合も同様に、乗合タクシーとする。乗合タクシーは、運行を地元タクシー会社が担うことも多く、小型車両の利点を生かして、通常のバスがサービスを提供できない狭隘な道路にも乗り入れている。乗合タクシーの中には、観光目的や福祉目的のサービスも含まれるが、本書が主として対象とするのは過疎地域等の交通弱者対策として導入されているものである。
また事前予約により利用者から呼び出された場合のみサービスを提供する形態を、デマンド交通と呼ぶ。デマンド交通は、使用する車両からデマンドバスとデマンドタクシーに大きく分かれる。デマンド交通の中には、定時定路線だが予約を受けて利用者がいる場合のみ運行する通常のバスに近いタイプの他に、一定地域内であればダイヤや運行路線を自由に選択可能なタクシータイプがある。タクシーと類似したサービス提供では、既存事業者との競合など解決すべき問題も生じる。
過疎地域(公共交通空白地)の輸送では、例外的に自家用車による有償運送も一部認められている。自家用車による有償運送は、中山間地の民間バス廃止に伴い、自治体が道路運送法78 条の特例として自家用バスを利用して市町村運営有償運送(市町村代替バス)を行う事例が、以前から多数存在した。これに加えて、NPO 法人などが一定の条件下で自家用車を利用して近隣住民を輸送するサービスも、2003 年10 月から徳島県上勝町の「上勝町有償ボランティア輸送特区」で開始された。翌年4 月には、規制改革により特区から全国展開が図られ、さらに2015 年4 月1 日には、公共交通空白地有償運送に名称が変更されて、都市部でもバスやタクシーなどの公共交通機関の運行が困難な地域へ、対象を拡大した。ちなみに、運賃は実費程度、営利と認められない範囲内に制限されている。公共交通空白地における自家用有償運送は、原則として、タクシー会社などの公共交通機関が存在せず、住民の日常の輸送サービスが確保できない地域が許可の条件になっている。運行にあたり運営協議会を設置し、運賃や事故時の対応、苦情処理などの運行体制を構築するとともに、NPO法人や社会福祉法人などの非営利団体または自治会などを運行主体にする必要がある。また運営協議会で協議が整った市町村を、少なくとも発地または着地としなければならない。2016 年度に全国で公共交通空白地有償運送を手がける団体数は、国土交通省によると532 団体であり、そのうち433 団体(全体の81.4%)が市町村である。ただし年々、NPO 等の団体の手がける事例が増加している。自家用有償運送でも、福祉目的のサービスが数多く提供されているが、本書の対象は乗合バスなど公共交通機関の代替手段としての輸送サービスである。
本書で分析している事例は、これまでの日本交通政策研究会の研究プロジェクトの成果をとりまとめたものである。今回の刊行にあたり、一部の章を新たに書き下ろしたほか、他の章についても章立て自体を再構成したりデータのアップデートを実施するなど、大幅な加筆修正を行っている。研究会では、複数年にわたり調査を継続した事例もあり、成果はその都度報告書にまとめていた。今回の双書刊行にあたり、それら複数章を1 つにまとめて再構成している章も存在する。
【目次】
第1章 地域公共交通維持・活性化の制度的枠組み
1.1 デマンドバス・コミュニティバスとそのルーツ
1.2 日本のバス市場の変化
1.3 路線の維持・廃止と補助政策
1.4 地域公共交通に関する協議と計画づくり
第2章 市町村ごとに異なる路線バス政策にみる課題-群馬県北毛地域の各市町村の事例研究-
2.1 渋川市域の路線バスの特性と課題
2.2 利根沼田地域における路線バスの現状・課題
2.3 吾妻郡内の状況と課題
2.4 運賃負担の軽減をはかった利用促進策
2.5 路線バスの利用促進に関わる諸要素の考察
2.6 総括的考察
第3章 地方都市における交通モード間連携施策の現状-長野県松本市の事例-
3.1 地域公共交通政策の変化と交通モード間連携の必要性
3.2 事例研究:長野県松本市
3.3 松本市における交通モード間連携施策の現状
3.4 松本市を通した交通モード間連携施策の示唆
3.5 おわりに
第4章 路線バスを利用した貨客混載の取組み
4.1 路線バスによる貨客混載の系譜
4.2 路線バスによる宅配便輸送―全但バス神鍋線の事例―
4.3 路線バスによる農産物輸送―広島県北広島町の事例―
4.4 貨客混載は切り札となりうるか
第5章 上限200 円バスの展開-京都府京丹後市から近隣への波及-
5.1 上限200 円の端緒―京丹後市の交通政策―
5.2 上限200 円運賃の近隣地域への波及
5.3 全但バス神鍋線における上限200 円運賃
5.4 おわりに
第6章 地域公共交通におけるデマンドタクシーの導入-雲南市のだんだんタクシー
6.1 雲南市の概要
6.2 掛合地域の「だんだんタクシー」
6.3 雲南市発足後の「だんだんタクシー」
6.4 おわりに
第7章 観光振興と公共交通アクセス
7.1 公共交通機関を利用した周遊が困難な事例-群馬県・富岡製糸場周辺の交通-
7.2 公共交通機関を利用したアクセスが困難な世界遺産の事例
-岩手県釜石市・橋野鉄鉱山への公共交通アクセス―
7.3 福祉目的と観光利用を両立した循環バスの事例-山口県萩市・萩循環「まぁーるバス」-
7.4 各事例の課題と今後の展望
第8章 西多摩エリアの観光と公共交通
8.1 西多摩エリアの観光と交通
8.2 西多摩エリアの観光と交通の現状
8.3 西多摩エリアにおける公共交通の利用者増加に向けて
8.4 おわりに
第9章 地域交通の維持における住民参画の意義と課題-青葉台コミュニティバス運営協議会の取組み-
9.1 取組みの背景
9.2 あおばすの運行に関わる主体とその役割
9.3 あおばすが持続している要因
9.4 今後の課題
第10章 住民組織によるバス路線開設-函館市・陣川あさひ町会の事例-
10.1 住民組織を活用した交通空白地域の解消の検討
10.2 住民組織を活用した交通空白地域の解消に向けた課題
10.3 陣川あさひ町会の地域概況と交通概況
10.4 陣川あさひ町会における取組みの背景と現状
10.5 おわりに
第11章 地域全体で取り組む新しい公共交通-長岡市山古志・太田地区のクローバーバス―
11.1 山古志・太田地区における「クローバーバス」の仕組み
11.2 クローバーバスの成果と特徴
11.3 地域住民主体の組織を目指して
第12章「自家用有償旅客運送」の活用-近畿地方北部の事例から―
12.1 京都府京丹後市丹後町「デマンドバス」「ささえ合い交通」
12.2 兵庫県養父市「やぶくる」
12.3 事例の比較からみえること
第13章 持続ある公共交通維持策へ-各地の事例からみえるもの-
13.1 輸送特性と交通手段選択
13.2 公共交通サービスの選択と社会的費用
13.3 取り上げた事例の人口規模
13.4 本書の事例からみる施策の特長
カテゴリー: