著者名: | 江田健二・阪口幸雄・松本真由美 共著 |
ISBN: | 978-4-425-98521-0 |
発行年月日: | 2020/8/28 |
サイズ/頁数: | A5判 184頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
エネルギー・環境分野に携わるビジネスマンへのメッセージ。
「脱炭素化」はなぜ必要か?
どう取り組めばいいのか?
そのヒントを紹介します。
2010年代の助走期間を過ぎ、大きな変革期を迎えている「エネルギー産業」。その肝となるキーワードが本書のテーマである「脱炭素化」です。大学の研究者、日本の環境・エネルギー分野の専門家、シリコンバレー在住のコンサルタントと異なるバックグラウンドを持つ3人が、各々の視点から「脱炭素化」を解説。世界の流れから日本の方針を踏まえて、日本・米国での企業や官公庁の取り組み、事業展開を紹介します。
【はじめに】より
「2020年代の10年間を振り返った時に一番大きく変わった産業は何か?」と聞かれると「エネルギー産業」と答えることになるでしょう。なぜなら、エネルギーを取り巻く環境は、2010年代の助走期間を過ぎ、根本的な変化の時期を迎えているからです。
その激変に大きく影響を与えるものが2つあります。1つは、「デジタル化」です。これまではアナログに管理されていたエネルギーが、デジタル化されます。デジタル技術としては、ビッグデータ、IoT、AI、そしてブロックチェーンなど、他の産業にも多大な影響を与えている技術。それに加えてスマートメーター、ディスアグリゲーション、電気自動車、蓄電池、無線給電など業界特有の技術があります。全産業に影響を与えるデジタル化、エネルギー産業特有のデジタル化が絡み合うことで変化の速度が上がり続けています。
では、2つ目は、何でしょうか? この書籍のテーマでもある「脱炭素化」です。
「デジタル化」「脱炭素化」この2 つのテーマは、日本だけではなく、世界共通のテーマです。この2つの影響を止めることは、おそらく誰にもできないでしょう。
それにもかかわらず、「脱炭素化」について知識や考えを共有する「場」やまとまった情報が「デジタル化」に比べるとまだまだ少ないと感じていました。そこで、以前から親交のあった3人が集まりました。3 人のバックグラウンドは、大学の研究者、日本の環境・エネルギー分野の専門家、シリコンバレー在住のコンサルタントと全く異なります。
1年以上かけて何度も話し合う中で「3人が各々の視点から脱炭素について丁寧に説明し、情報を共有することは、多くの方に貢献ができるのではないか」という結論に達しました。その結果生まれたのがこの書籍です。
第1章では、東京大学客員准教授である松本がアカデミックな視点から「世界の流れ、日本の方針」を解説しています。第2章では、日本で環境・エネルギー分野を中心に事業展開を行う江田が日本にいるビジネスマンへのメッセージとして「なぜ脱炭素について知る必要があるのか。ビジネスマンは、明日から何をしたらよいのか」について語っています。第3章では、シリコンバレーで活躍する阪口がアメリカを中心とした海外の最新動向を独自の視点で解説しています。
3人の「脱炭素」の捉え方や考え方は必ずしも全てが一致しているわけではありません。敢えて意見の擦り合わせをするのではなく、各々の考え方を尊重し、1つの書籍という形にしています。読者の皆様の立場やこれまでの知識量によって、フィットする意見もあれば、首をかしげたくなる意見もあるかもしれません。しかし、何かしら「これからの行動」に役に立つメッセージがあるはずです。ぜひ、関
心のある章から自由に読み進めていただき、この書籍がきっかけとなって「脱炭素」についての活発な意見、積極的な行動が生まれれば幸いです。
2020年7月吉日
共著者代表:江田健二
【目次】
第1章 世界の流れは「脱炭素化」へ
1-1 地球温暖化をめぐる国際交渉
2019年12月COP25― 降伏か、希望のいずれか ―
1992年リオ地球サミット以降のCOPの
潮流
“異常気象”から“気候危機”へ― 気候非常事態 ―
地球温暖化、人為起源のGHG増加が原因
1-2 非化石エネルギーへの転換
世界の金融プレーヤーが支援を打ち出す― 気候変動のリスクとチャンスを分析 ―
ESG投資の拡大
1-3 「脱炭素」への潮流
環境価値の証書
国際イニシアティブへの加盟― SBT・RE100 ―
再生可能エネルギーの導入拡大と海外での発電コスト
SDGsの潮流
1-4 脱炭素化に向けた世界の動き
欧州の動き
カーボンプライシング カーボンプライシングの種類・日本のカーボンプライングにおける議論
欧州での水素利用の動き
欧州で進む車の電動化
米国のトランプ政権:パリ協定離脱の波紋
急速に変わる中国
1-5 日本での動き ― 日本の地球温暖化対策 ―
日本の温室効果ガス削減目標
産業界の動き
非化石エネルギーへの転換をめざす― エネルギーミックス
FIT法から再エネ促進法へ
注目の洋上風力発電と“ゲームチェンジャー”
分散型エネルギーを活かした社会
column 分散型エネルギーのデジタル化・可視化への期待
第2章 日本の「脱炭素化」への取り組み ― 目指す方向と企業、行政事例 ―
2-1 「脱炭素化」への道
「脱炭素」という言葉の魔力
悩んで当然。明確な計画を立てられているのは、1~2割程度
心の「もやもや、ざわつき」のタイプ
2-2 「脱炭素」はブームか、トレンドか
経営におけるブームとトレンド
永続的な繁栄を保証するパスポート
2-3 「脱炭素」の可能性を探る
脱炭素のメリットとデメリット
トップのコミットメントが大切
2-4 どうしたらいいの? 企業の「脱炭素化」
事例を学ぶことで自社にあった方法を見つけられる
例えば、こんなやり方 ― 大手の企業事例 ―
企業事例1 株式会社リコー
企業事例2 ソニー株式会社
企業事例3 イオン株式会社
企業事例4 大和ハウス工業株式会社
中小企業や地方の会社の奮闘
企業事例5 株式会社大川印刷
企業事例6 エコワークス株式会社
2-5 「脱炭素化」への支援策
国や地方自治体の取り組み
行政事例1 イノベーションを推進する“経済産業省”
行政事例2 地域循環を推進する“環境省”
行政事例3 エコへの取り組みが盛んな“長野県”
2-6 脱炭素化 ― 永続的な繁栄へのアクション ―
未来のステークホルダーは誰?― 「ミレニアムズ」「GenZ」 ―
情報開示は当たり前、存在意義も問われる時代
顧客とはパートナーであるという考え方
日本だからできること
第3章 「脱炭素化」ビジネス ― カリフォルニアとハワイの場合 ―
3-1 米国のエネルギー政策と脱炭素化の流れ
脱炭素化はとまらない
米国のエネルギー政策の歴史
米国のエネルギー政策― パリ協定からの離脱と自治体として参加 ―
米国ではエネルギーはどこで消費されているの?
3-2 温室効果ガス排出の現状
米国での温室効果ガス排出量の推計
経済セクターごとの現状とその対策
多く排出される温室効果ガスの種類
3-3 州と民間企業が進める脱炭素化
州ごとに進む発電セクターのクリーン化
3-4 カリフォルニア州の脱炭素化の取り組み
温室効果ガス排出削減目標― カリフォルニア州の位置付け ―
カリフォルニア州の温室効果ガス排出状況
カリフォルニア州の排出削減目標
3-5 『発電セクター』の脱炭素化
再生可能エネルギーによる時間帯別の発電量
温室効果ガスゼロ発電100%へ向かって州法化
RPS(再エネ利用比率)とは?
電化に伴う消費電力の増加 運輸セクター・鉱工業セクター・商業・住宅セクター
増加する電力需要をどうやって賄うか
「再エネ発電」増加のマイナス面とその対策
マイナス面1:自然エネルギー特有の変動への対応
マイナス面2:朝と夕方に発生する急峻なランプへの対応
マイナス面3:インバータ経由で電力網に繋がる電源の増加
マイナス面4:インフラ整備に伴う電力料金の上昇
太陽光発電とバッテリーに関する「サカグチモデル」
調整力とエネルギー貯蔵
column OTC発電所は2029年までにすべて停止へ
3-6 『運輸セクター』の脱炭素化
ガソリン車販売禁止のXデー!?
ZEV規制とは
ZEVの実績
ゼロエミッション化は進むのか? ガソリン車販売禁止の「Xデー」は? 大型車のゼロエミッション化・公共バスの電動化
大型トラクターの電動化 ― テスラ、ダイムラー、トヨタ ―
テスラセミ
ダイムラーのアプローチ
トヨタの水素トラック
大型トラクター向けの充電インフラは?
充電インフラと需給調整への貢献
車両のゼロエミッション化に伴う必要電力量の増加
公共交通機関の充実とラストワンマイルへの挑戦 都市内移動と配送はスマートシティの重要テーマ
スマートシティコンテストでアイディアを競う航空機のクリーン化
3-7 『鉱工業セクター』の脱炭素化
『鉱工業セクター』の脱炭素化は他のセクターでの削減にも依存
キャップアンドトレード制度
アエラエナジー社の取り組み
3-8 『商業・住宅セクター』における脱炭素化と天然ガス利用の今後
天然ガスへの期待と風当たり ― 天然ガス利用の現状と今後
天然ガスは「つなぎの燃料」?
家庭と商業セクターでのオール電化
100%電化の難しさ
家庭もマイクログリッドへ
3-9 独自路線を進むハワイ州の脱炭素化
ハワイである理由― 急速に進む環境の変化 ―
クリーンエネルギー化を原動力に
カギを握るのは「太陽光発電とバッテリーの併設」
島嶼では電圧・周波数の変動の抑制が大事
ハワイでは運輸セクターが脱炭素化の大きなターゲット 電気自動車と電動バス・公的交通機関の整備とラストワンマイル
3-10 ビジネスチャンス! “脱炭素化のすすめ”
column マイクログリッド化したマイクロブリューワリでマイクロ泡のマウイビールを
この書籍の解説
電車内のディスプレイで、「全路線を再生可能エネルギー由来の電力100%で運行しています!」という広告が出ていました(東急電鉄です。同社は2022年4月から実質CO2排出ゼロの電力で走っているそうです)。よく利用する電車が環境にやさしいものだと思うと、何となく安心感がありますね。「温室効果ガス排出ゼロ」や、「脱炭素化」は、顧客の利便性向上とともに、企業の取り組みとして歓迎されるものになりつつあります。
こうしたイメージアップ効果はわかっていても、なかなか踏み切れない企業もあることでしょう。再生可能エネルギーを導入しようとするとコストがかかりますし、システムの刷新も必要です。資金力のある大企業ならともかく、中小企業では現在のやり方を変えるだけの体力がないと考えられる方も多いかもしれません。
しかし、「持続可能な開発目標(SDGs)」でも掲げられているように、この「脱炭素化」の動きは全世界的で不可避なものです。この波に乗り遅れないよう、世界と日本の潮流を掴み、会社を「変えること」そのものをビジネスチャンスととらえてみてはどうでしょうか。
今回ご紹介する『「脱炭素化」はとまらない!』は、「必要性はわかっているが、何から取り組んでいいのかわからない」「どのような制度があるの?」「ダメージの少ない移行方法はないの?」等悩めるビジネスパーソンの方におすすめです。
大学研究者、環境関係のスペシャリスト、シリコンバレーのコンサルタントという立場の違う3名の視点から脱炭素化の概要とトレンドをつかみ、取り組みの事例を豊富に紹介し、ビジネスのヒントを提示します。現場の方はもちろん、新しく環境関連の業務につかれる方や、新人教育にもおすすめです。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『「脱炭素化」はとまらない!ー未来を描くビジネスのヒントー』はこんな方におすすめ!
- エネルギー産業に従事する方
- SDGsに関する業務を担当している方、新人教育に関わる方
- 企業におけるエネルギーコストについて考えたい方
『「脱炭素化」はとまらない!ー未来を描くビジネスのヒントー』から抜粋して3つご紹介
『「脱炭素化」はとまらない!』から抜粋していくつかご紹介します。現在大きな変革期を迎えているエネルギー産業。そのキーワードとして注目を浴びているのが「脱炭素化」です。脱炭素化における世界と日本の現状と取り組み、事業展開等について、大学研究者、エネルギーの専門家、シリコンバレーのコンサルタントの3名が、それぞれの視点から解説します。
カーボンプライシング
温暖化対策を進めるためには、温室効果ガスの排出量を削減しなければなりません。そのための施策としては 「規制」「環境税(炭素税)」「排出量取引」 があります。最大の排出量を占める二酸化炭素(CO2)をはじめ、メタン(CH4)一酸化二窒素(N2O)等の温室効果ガスの削減にこれらの施策が用いられています。
カーボンプライシングは、政府規制による「施策」と民間企業の自発的な「インターナルカーボンプライシング(ICP)」に大別されます。ICPは、企業が自主的に炭素に価格付けを行うものです。事業計画の策定や投資判断に当たって、実際の炭素価格、シャドーカーボンプライス(投資計画・事業計画の策定の際に参考として設定する炭素価格)を組み込みます。ICPは、企業のCO2削減の取り組みを現状に合わせ柔軟に変化させることもできます。
政府の「施策」には、「排出量取引」と「炭素税」があります。政府が炭素の排出量に価格付けを行い、排出量取引制度や炭素税を導入することにより、企業の削減行動が促されるという考え方です。
「排出量取引」は、個々の企業に排出枠(温室効果ガス排出量の上限:キャップ)が設定され、事業者は自らの排出量相当の排出枠を調達する義務を負います。キャップが未達の場合は罰則があるのが一般的です。
「炭素税」は、炭素の排出量に対して課税されますが、税率はCO2排出量1トン当たりの金額(炭素価格)となります。 日本の 「地球温暖化対策のための税(温対税)」も炭素税と分類されており、税率はCO2トン当たり289円です。これは世界の炭素税の中でもっとも低い税率といわれていますが、エネルギー税などの環境税も実質的なカーボンプライシングと見ることもできます。
カーボン(炭素)に価格を付けて値段を高くすれば、企業による炭素の排出削減の取り組みが進むだろうというのが、カーボンプライシングの考え方です。
しかし、炭素税の課税により企業が生産拠点を海外へ移してしまうことが懸念されます。これによる 「カーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)」も生じかねません。排出規制が緩やかな海外に生産拠点を移した結果、地球全体の排出量はむしろ増えてしまう可能性もあります。一国のみで炭素価格を操作しても意味がないのです。
環境省は、2050年までに温室効果ガスを80%削減する長期目標の達成にはカーボンプライシングの導入が必要だと発表しました。しかし経済産業省は、産業界はすでに重い負担を強いられているとして、懐疑的な見方を示しています。カーボンプライシングをめぐる両省の見解は未だ一致をみていません。日本の政治的判断が求められています。
EUは2022年12月、国境炭素税を導入することを発表しました。気候政策が野心的でない国からの輸入品に税をかけることによって、カーボンリーケージを回避することが目的です。お金を払えば環境に負荷をかけることが許されるわけではなく、炭素税はあくまで排出量削減の手段として用いてほしいものです。
脱炭素化のメリット、デメリット
脱炭素が必須の取り組みであることを前提に、企業や組織が取り組む際のメリットとデメリットを整理します。メリットをしっかりと関係者に共有することができれば、多くの賛同を得られます。
キーワードは「ステークホルダー(利害関係者)」です。直接的な利害関係のある顧客や従業員、ビジネスパートナーや投資家・株主にとどまらず、自社の脱炭素の取り組みによって影響を受ける地域、NGO、メディアなども含まれます。
「脱炭素」への取り組みを進めることで、企業を取り巻く8タイプのステークホルダー全てから様々なメリットを得ることができます。
具体的には、
① 顧客・消費者→顧客の増加、既存顧客のロイヤリティ向上による売上アップ
② 地域→地域との共生による地元住民や自治体からの支援
③ 投資家・株主・銀行→資金調達可能性の拡大、 株価の向上、低金利での融資
④ ビジネスパートナー→取引機会の増加
⑤ 従業員→優秀な人材の獲得、社員の定着化
⑥ NGO→第三者的評価の向上によるブランド力アップ
⑦ 政府 国際機関→補助金等のバックアップ
⑧ メディア→好意的な紹介による認知度の向上
などです。
もう1つのメリットは、新しいビジネス領域の可能性です。自社が脱炭にいち早く取り組むことで、この新しいビジネス領域に参入することも可能なのです。
一方、脱炭素の最大のデメリットはコストです。 例えば再エネ電力を買おうとすると、エネルギーコストが1割程度アップします。自社で太陽光発電などを進める場合も、初期投資や建築リスクなどがあります。コストアップを抑えるためには、省エネやエネルギー調達の見直しなども同時に行っていく必要があります。
脱炭素を進めていくためには、メリットを明確化しつつデメリットについても把握しましょう。デメリットをできる限り減らす方法を模索しながら進めていく必要があります。
《見極めはトップのリーダーシップ》
脱炭素化に有効な取り組みは、エネルギーに関わるものが中心です。 そのため、現場の責任者に任せようと考える経営者も多いでしょう。しかし、脱炭素化への対応は会社全体で考えるべき経営課題です。経営層のコミットメントは必須です。
その理由は2つあります。
①脱炭素の取り組みは短期的な業績につながりにくい:脱炭素は長期戦であり、すぐには成果が現れません。だからこそトップが長期的な視点で進捗を把握し、社内外に発信することが必要です。
②エネルギーをめぐる外部環境は変化が激しい:目まぐるしく変化し次々に新しい考え方が導入される中、方針決定には大きな視点からの判断が必須です。外部環境について最新の情報をキャッチし、多くの部門のニーズを吸い上げ、外部の専門家も巻き込み議論しながら経営陣が最終決定を行う企業がほとんどです。
脱炭素化のように複雑化しているテーマについて
は、トップのコミットメントが大切です。
すぐに結果の出ない事業こそ、トップの決断が重要です。実現すれば顧客や自治体からの印象もよくなり、長期的な経営状態の改善や、新たなビジネスの開拓にも繋がるでしょう。まだまだ大手中心の動きですが、本文のこのあとの項目に国内の脱炭素化実施事例が豊富に紹介されています。
ハワイ州の脱炭素化
ハワイ州の脱炭素化の状況を紹介します。ハワイはエネルギー政策に関しては全米のトップを走っています。海面上昇への恐怖心、石油火力発電に頼る経済の脆弱さ、観光中心の産業構造が主な理由です。発電セクター、運輸セクター、商業セクター、リゾート、軍、学校等が脱炭素化に向かって進んでいます。各セクターでのマイクログリッド化が急速に進んでいるのも特徴です。
《発電セクター》
ハワイにおける発電セクターでの脱炭素化の目標は州法で、2030年に40%、2040年に70%、2045年に 100% と決まっていますが、それよりも早く実現しようとしています。
各島の再生可能エネルギーによる発電について紹介します。マウイ島は大型風力発電、ハワイ島は地熱発電が貢献しています。オアフ島は再エネ発電率が一番低いですが、今後5年で40%を達成する見込みです。
発電セクターで脱炭素化が加速される主な理由は、次の4つです。
① 現在のハワイ州での発電のほとんどが石油火力発電
② 原油価格に影響されるため発電コストが全米一高い
③ 火力発電所は海岸線沿いにあり、ハリケーンや津波のリスクが高い
④ それ以外のインフラも老朽化している
《カギを握るのは太陽光発電とバッテリーの併設》
2019年にハワイ電力により公募が行われ、7件のプロジェクトが選ばれました。注目したい点は、次の3つです。
① バッテリーとの併設で、晴天の日中しか発電しないという太陽光発電の欠点を解決している
② 発電事業者とハワイ電力間の売電契約価格が極めて低価格
③ 火力発電所と同様にハワイ電力が電力の供給をコントロールできる
これらの施設は2023年頃発電が開始されます。
《島嶼では電圧・周波数変動の抑制が課題》
カウアイ島では、2019年から連続して数時間程度、自然エネルギーによる発電が島の電力の100%を供給するようになりました。自然エネルギーからの発電が100%になると、電力網の安定性が損なわれます。太陽が雲から出入りする度に周波数や電圧が変わるのです。このような自然エネルギー故に新しく顕在化してくる問題への先行的な研究が重要です。
《運輸セクター》
ハワイでは電気自動車やハイブリッド車の導入も進んでおり、導入率は全米2位です。電気料金は全米一高いですが、自宅の屋根に太陽光発電施設の設置が可能な富裕層を中心に導入が進むと思われます。
大きな課題はバスです。ワイキキ周辺と空港を結ぶ高速道路を走行するバスはガソリン車かディーゼル車で、クリーン化が強く望まれています。最近は一部で電動バスが始まりました。
ホノルルの交通渋滞はひどいため、車やバスに頼らない公共交通機関が望まれていました。パールハーバー西側の再開発地域と、空港とホノルルダウンタウンへの電車が現在建設中です。この電車が完成すると、ワイキキからホノルル空港への足が整備され、ガソリン消費が減り空気汚染も改善されます。
また、レンタル自転車がワイキキのあちこちで利用されています。
10年ほど前にハワイに行ったことがあります。旅行者用の巡回バスなどを便利に利用したものの、確かに道路はいつも混雑していました。電車は無理でも路面電車などが走っていてもいいのに、と考えたものですが、鉄道も建設されているのですね。是非乗りに行ってみたいものです。
『「脱炭素化」はとまらない!ー未来を描くビジネスのヒントー』内容紹介まとめ
地球温暖化防止と持続可能な開発が求められる今、エネルギー産業は大きな転換点に立っています。その実現のための大きなキーワードが「脱炭素化」です。世界の潮流と日本の取り組みと支援策、海外での「脱炭素化」ビジネスをジャンル別に紹介し、この大きな流れに乗り遅れないためのヒントを提示します。不可避の流れをビジネスチャンスに変える、前向きの環境対策の提案です。
『「脱炭素化」はとまらない!ー未来を描くビジネスのヒントー』を購入する
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これからどうするエネルギー? おすすめ3選
・
『運輸部門の気候変動対策ーゼロエミッション化に向けて』
温室効果ガスco2の20%近くを輩出する運輸部門。さらにその85%強を排出する自動車の気候変動対策について、欧州先進国のEV普及促進政策を紹介し、日本におけるハイブリッド・EV車普及の現状と将来性を検証します。日本のライフスタイルや交通の現状に、EVはどのようにフィットしていけるのでしょうか?
・
『地熱エネルギーの疑問50 みんなが知りたいシリーズ18』
再生可能エネルギーの中でも注目されている李熱エネルギー。火山国である日本は、地熱資源が豊富です。出力が安定した地熱発電が普及するための条件はどんなものなのでしょう?地下からエネルギーを見つけ、取り出し、利用する方法と、地熱開発に関わる制度や規制など、地熱についてわかりやすくQ&Aで解説します。
・
『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』
持続可能な開発目標が掲げられていますが、産業構造がこのままでは実現は困難なのではないでしょうか。SDGsの目標達成のためには、産業文明の構造自体から考え直し、真に持続可能な文明の形を考える必要があります。バイオメタノールを中心とした文明をシミュレーションし、新しい産業文明を提案しました。
書籍「「脱炭素化」はとまらない!ー未来を描くビジネスのヒントー」を購入する
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