コラム
2012年6月25日
著者へのインタビュー【日本空港コンサルタンツ杉山純子さん、松前真二さん】
2012年4月、日本でも本格始動した「LCC」。海外の事例を参考にしながら、この先、日本でLCCが成長する要因は何か? それを考察する本が発行になりました。今回はその著者である日本空港コンサルタンツの杉山純子さんと監修にあたった同社社長の松前真二さんに本書についてお話をお聞きしました。
御社の業務内容を教えてください
日本空港コンサルタンツ(JAC)は、1970年4月、国内的には大型ジェット機時代の到来に対処するため、国際的にはODAによる空港インフラ整備に対処するため専門の建設コンサルタントが必要だとしてオールジャパンの支援の下に設立されました。以来、40数年にわたり、我が国で唯一の空港専門コンサルタントとして内外の多くの空港建設プロジェクトに参画してきました。
最近では空港に限らず公共事業の担い手が官から民へとシフトしていく中で、PFI・PPP事業のように一過性の建設ということだけでなく、施設の管理運営まで含めたパッケージ型プロジェクトが出現してきています。当社はこれまで培ってきた空港建設のノウハウを生かし空港の管理運営という分野にもウィングを拡大していくつもりです。
最近では空港に限らず公共事業の担い手が官から民へとシフトしていく中で、PFI・PPP事業のように一過性の建設ということだけでなく、施設の管理運営まで含めたパッケージ型プロジェクトが出現してきています。当社はこれまで培ってきた空港建設のノウハウを生かし空港の管理運営という分野にもウィングを拡大していくつもりです。
1-1 杉山さんの自己紹介
以前は外資系の航空会社2社に勤めていました。最初の会社では空港での接客(グランドスタッフ)、その次の会社では旅行会社に向けた営業サポートや支社長秘書業務をしていました。前職の2社では単体の航空会社での勤務でしたが、今は航空行政という広い業界で空港政策あるいは航空政策を扱っています。
同じ航空分野であっても仕事の内容がミクロからマクロという広い領域になりました。当社はほとんどが理系出身のエンジニアばかりの中で私は文系出身なので、この会社では異色の経歴だと思います。
以前は外資系の航空会社2社に勤めていました。最初の会社では空港での接客(グランドスタッフ)、その次の会社では旅行会社に向けた営業サポートや支社長秘書業務をしていました。前職の2社では単体の航空会社での勤務でしたが、今は航空行政という広い業界で空港政策あるいは航空政策を扱っています。
同じ航空分野であっても仕事の内容がミクロからマクロという広い領域になりました。当社はほとんどが理系出身のエンジニアばかりの中で私は文系出身なので、この会社では異色の経歴だと思います。
1-2 松前さんの自己紹介
ご存知かと思いますが、運輸省航空局出身です。役人時代は新し物好きで、役所に初めてワープロ、パソコン、ビデオカメラを入れたこともありました。山口県岩国基地の軍民共用化をキーワードに政治の世界を覗いたのですが、結局、空港の業界に舞い戻り、この会社に入ってから12年になります。岩国基地軍民共用プロジェクトは民間企業の立場で支援していました。
ご存知かと思いますが、運輸省航空局出身です。役人時代は新し物好きで、役所に初めてワープロ、パソコン、ビデオカメラを入れたこともありました。山口県岩国基地の軍民共用化をキーワードに政治の世界を覗いたのですが、結局、空港の業界に舞い戻り、この会社に入ってから12年になります。岩国基地軍民共用プロジェクトは民間企業の立場で支援していました。
お互いの接点は? 印象は?
松前:
杉山さんが前職でなにやっていたか、詳細には今日のインタビューで初めて知りました(笑)。本の「あとがき」に書いた通りなのですが、航空会社の勤務経験や語学が堪能なことを生かして徐々に慣れてくれればいいと思っていました。それが、経営学の勉強をしていたとは。お客さまからの評価は高いし、仕事に安定感があります。当社は建設コンサルタントが本業であり、社員も技術屋集団ですが、社会環境の変化は需要予測ひとつとってもこれまでの交通工学的な手法だけでなく社会工学的な観点が求められ、空港の管理・運営といった今までにない分野の仕事がこなせる人材が必要になってきています。そういう意味で彼女に対する期待値は大きいのです。
杉山:
社長という立場にありながら、とてもフットワークが軽い方だという印象を持っています。「良い!」と思ったことはすぐに動きます。この本の原稿もすぐに出版社に持ち込んでいただき、出版に向けて動いてくれました。前例がないことに対しての間口は広く、いろいろと提案がしやすいです。
杉山さんが前職でなにやっていたか、詳細には今日のインタビューで初めて知りました(笑)。本の「あとがき」に書いた通りなのですが、航空会社の勤務経験や語学が堪能なことを生かして徐々に慣れてくれればいいと思っていました。それが、経営学の勉強をしていたとは。お客さまからの評価は高いし、仕事に安定感があります。当社は建設コンサルタントが本業であり、社員も技術屋集団ですが、社会環境の変化は需要予測ひとつとってもこれまでの交通工学的な手法だけでなく社会工学的な観点が求められ、空港の管理・運営といった今までにない分野の仕事がこなせる人材が必要になってきています。そういう意味で彼女に対する期待値は大きいのです。
杉山:
社長という立場にありながら、とてもフットワークが軽い方だという印象を持っています。「良い!」と思ったことはすぐに動きます。この本の原稿もすぐに出版社に持ち込んでいただき、出版に向けて動いてくれました。前例がないことに対しての間口は広く、いろいろと提案がしやすいです。
なぜ、「LCC」についての論文をまとめようと思ったのですか?
杉山:
仕事では空港について様々な観点から調査・分析を行うことが多いのですが、その際は、与えられた調査仕様書に基づいてお客様と一緒に方向性を考えながらレポートをとりまとめることが多いです。
一方プライベートではビジネススクールに通っていたのですが、卒業の要件として修士論文を書く必要があったので、仕事とは異なり自分の好きなジャンルを取り上げて自由に執筆してみたいという思いがありました。そこで、前職で従事していた航空会社に関することを書いてみようと思いつきました。過去に海外に住んでいる友達を訪ねた際、海外ではLCCが当たり前の存在になっていて、数百円の航空券を買ってみんなが旅行を楽しんでいることに驚いた記憶がありました。それ以来、LCCに興味を持っていたため、論文のテーマにLCCを選びました。
仕事では空港について様々な観点から調査・分析を行うことが多いのですが、その際は、与えられた調査仕様書に基づいてお客様と一緒に方向性を考えながらレポートをとりまとめることが多いです。
一方プライベートではビジネススクールに通っていたのですが、卒業の要件として修士論文を書く必要があったので、仕事とは異なり自分の好きなジャンルを取り上げて自由に執筆してみたいという思いがありました。そこで、前職で従事していた航空会社に関することを書いてみようと思いつきました。過去に海外に住んでいる友達を訪ねた際、海外ではLCCが当たり前の存在になっていて、数百円の航空券を買ってみんなが旅行を楽しんでいることに驚いた記憶がありました。それ以来、LCCに興味を持っていたため、論文のテーマにLCCを選びました。
本書を出版しようと思ったきっかけを教えてください
杉山:
論文はビジネススクールでの卒業要件として執筆したのであり、本にするということは全く考えていませんでした。
松前:
彼女がこういった勉強をしていることは知りませんでした。空港の民営化の議論があり、空港の運営をどうするかということを仕事にしなくてはならない中で、そういったスキルを社員にもってもらわなければならないというニーズがありました。そのための勉強会を行う際、彼女の指導教官を講師・先生にという話になり、そのとき初めて彼女が経営の勉強をしていたことを知りました。
そして、これも、本書の「あとがき」にも書きましたが、そのときに彼女から「論文を書いているので役立ててください」との申し出が社内メールで送られてきました。それを見たら、とてもできがよかった。
私は職業柄いろいろな航空に関する出版物を見てきましたが、それらと比べても遜色がない。そこで、プロの目から見て出版の可能性について聞いてみたいと思い、航空図書も扱う出版社の成山堂書店を訪れました。出版できるか否か、またできなくてもこれが出版に値するものかどうかを聞きたかったからです。
もう一つ、なぜ出版を意識したかというと、当社のような技術系の場合、仕事の必須条件として技術士や建築士などの資格があります。しかし、事務系の分野にはこういったような資格は特にありません。そこで、その人の能力を測る物差しは何かとなった場合に、こういった論文や出版、学会における活動などが評価されるのです。彼女の場合はもともと文学部出身。評価されるには論文発表や本の出版をと思いついたわけです。
論文はビジネススクールでの卒業要件として執筆したのであり、本にするということは全く考えていませんでした。
松前:
彼女がこういった勉強をしていることは知りませんでした。空港の民営化の議論があり、空港の運営をどうするかということを仕事にしなくてはならない中で、そういったスキルを社員にもってもらわなければならないというニーズがありました。そのための勉強会を行う際、彼女の指導教官を講師・先生にという話になり、そのとき初めて彼女が経営の勉強をしていたことを知りました。
そして、これも、本書の「あとがき」にも書きましたが、そのときに彼女から「論文を書いているので役立ててください」との申し出が社内メールで送られてきました。それを見たら、とてもできがよかった。
私は職業柄いろいろな航空に関する出版物を見てきましたが、それらと比べても遜色がない。そこで、プロの目から見て出版の可能性について聞いてみたいと思い、航空図書も扱う出版社の成山堂書店を訪れました。出版できるか否か、またできなくてもこれが出版に値するものかどうかを聞きたかったからです。
もう一つ、なぜ出版を意識したかというと、当社のような技術系の場合、仕事の必須条件として技術士や建築士などの資格があります。しかし、事務系の分野にはこういったような資格は特にありません。そこで、その人の能力を測る物差しは何かとなった場合に、こういった論文や出版、学会における活動などが評価されるのです。彼女の場合はもともと文学部出身。評価されるには論文発表や本の出版をと思いついたわけです。
製作での苦労したことや気をつけたことは?
杉山:
まず一つは時間をつくること。本の執筆は業務とは別の活動(プライベート)という位置づけでしたので、執筆は休日や夜に行いました。その時間の確保がなによりも大変でした。
また、この論文を書きあげたときから出版まで1年経っていたので、航空業界をとりまく状況がどんどん新しくなり、常に情報を更新していくのも大変でした。しかし、本の発行の時期(2012年4月)に日本のLCC就航が重なったので、タイミングはよかったです。
まず一つは時間をつくること。本の執筆は業務とは別の活動(プライベート)という位置づけでしたので、執筆は休日や夜に行いました。その時間の確保がなによりも大変でした。
また、この論文を書きあげたときから出版まで1年経っていたので、航空業界をとりまく状況がどんどん新しくなり、常に情報を更新していくのも大変でした。しかし、本の発行の時期(2012年4月)に日本のLCC就航が重なったので、タイミングはよかったです。
本の反響はいかがでしたか? また良かったことは?
松前:
当社の技術系の若手社員がこの本を読み、「分かりやすい内容でした」と言っていたのがすごく良かった。外部の人にからも評価は高い。
それと、「日本空港コンサルタンツの社員がこういった本を書いた」というのが会社のアピールになった。いままさに世間でも「LCC」というのが注目を浴びていて、この本をきっかけに「講演会をやってみないか」との話がでてきており、すでに何件か講演を行っています。
当社の技術系の若手社員がこの本を読み、「分かりやすい内容でした」と言っていたのがすごく良かった。外部の人にからも評価は高い。
それと、「日本空港コンサルタンツの社員がこういった本を書いた」というのが会社のアピールになった。いままさに世間でも「LCC」というのが注目を浴びていて、この本をきっかけに「講演会をやってみないか」との話がでてきており、すでに何件か講演を行っています。
杉山:
私はFacebookをやっていて、そこで本書のこと書いたらそれを友人やビジネススクールに通っていた仲間がシェアしてくれて、一気に広がりました。ご無沙汰していた友達から連絡があり、「本、読んだよ。良かったよ」とメッセージが届き嬉しかったです。ビジネススクールでは航空については専門外の方が多いのですが、「飛行機が好きだから読んでみたらすごく分かりやすかった」と言ってくれました。
松前:
なぜわかりやすいかというと、内容やデータが全て杉山さんのオリジナルであるということ。資料を集め、分析をし、自分の考えで書いているから分かりやすいのです。この本は専門書の分野に入るからどうしてもとっつきにくい部分はありますが、読んでもらえれば内容のわかりやすさを感じてもらえます。
私はFacebookをやっていて、そこで本書のこと書いたらそれを友人やビジネススクールに通っていた仲間がシェアしてくれて、一気に広がりました。ご無沙汰していた友達から連絡があり、「本、読んだよ。良かったよ」とメッセージが届き嬉しかったです。ビジネススクールでは航空については専門外の方が多いのですが、「飛行機が好きだから読んでみたらすごく分かりやすかった」と言ってくれました。
松前:
なぜわかりやすいかというと、内容やデータが全て杉山さんのオリジナルであるということ。資料を集め、分析をし、自分の考えで書いているから分かりやすいのです。この本は専門書の分野に入るからどうしてもとっつきにくい部分はありますが、読んでもらえれば内容のわかりやすさを感じてもらえます。
この本で一番伝えたいことはなんですか?
杉山:
LCCというのは、いままでの航空会社の延長線上ではないということです。本書の中で「イノベーション」という言葉がでてきますように、日本にとっては新しい航空ビジネスの形であると思います。
LCCというのは、いままでの航空会社の延長線上ではないということです。本書の中で「イノベーション」という言葉がでてきますように、日本にとっては新しい航空ビジネスの形であると思います。
LCCの可能性について一言お願いします
松前:
LCCは安全がどうか? という話題がよくあがります。運航に関してはどの航空会社も同じことをやっているので安全に差はないと思います。そうはいっても、航空会社を運営してくためには、一定の事業規模がないと成り立ちません。LCCが成立するためには機体整備、グランドサービス等すべての業務を社内体制で行う必要があります。機体整備を自前でやろうとすると、最低でも10機くらいは持っている必要がある。
規制緩和で過去にも新たな航空会社がでてきました。その時は大手、フルサービスの運航会社と同じ路線を低価格で運航し客を奪うという発想でした。それは本来のLCCの目的とは違います。本来は、地方空港などの「セカンダリーエアポート」を使い、大手とは違う路線、客層の開発を目指し、地方間を結ぶことができれば、どんどん可能性は広がっていくのではないでしょうか?
航空業界でも価格破壊がどんどん行われており、これからはLCCかLCC的な存在の航空会社でないと残って行けない時代になっていくと思います。
LCCは安全がどうか? という話題がよくあがります。運航に関してはどの航空会社も同じことをやっているので安全に差はないと思います。そうはいっても、航空会社を運営してくためには、一定の事業規模がないと成り立ちません。LCCが成立するためには機体整備、グランドサービス等すべての業務を社内体制で行う必要があります。機体整備を自前でやろうとすると、最低でも10機くらいは持っている必要がある。
規制緩和で過去にも新たな航空会社がでてきました。その時は大手、フルサービスの運航会社と同じ路線を低価格で運航し客を奪うという発想でした。それは本来のLCCの目的とは違います。本来は、地方空港などの「セカンダリーエアポート」を使い、大手とは違う路線、客層の開発を目指し、地方間を結ぶことができれば、どんどん可能性は広がっていくのではないでしょうか?
航空業界でも価格破壊がどんどん行われており、これからはLCCかLCC的な存在の航空会社でないと残って行けない時代になっていくと思います。
最後にメッセージを!
松前:
こういった本を一般社員が出したということに、この本を出した価値があると思っています。当社がこういったことのできる会社だということが一番のアピールです。
杉山:
LCCの就航により、電車やバス、車以外にも低運賃で移動できる選択肢が増え、より便利になっていくと思います。そういったなかで、利用者の方には、LCCの特徴やビジネスモデルを理解したうで、旅行の目的などご自身のニーズに合った移動手段を選んでいただければと思います。
こういった本を一般社員が出したということに、この本を出した価値があると思っています。当社がこういったことのできる会社だということが一番のアピールです。
杉山:
LCCの就航により、電車やバス、車以外にも低運賃で移動できる選択肢が増え、より便利になっていくと思います。そういったなかで、利用者の方には、LCCの特徴やビジネスモデルを理解したうで、旅行の目的などご自身のニーズに合った移動手段を選んでいただければと思います。
編集後記
笑顔が素敵な杉山さんと話題豊富な松前社長とのインタビューは、楽しく勉強になり、あっという間に時間が過ぎていきました。「LCC」と聞いても、まだピンとこない人もいると思います。「安い飛行機でしょ」という、ただ単に安いというイメージだけが先行していますが、それだけではないLCCのことを聞くことができました。LCCに関する書籍はたくさんでていますが、海外の事例やこれからのLCCの可能性をまとめたものは類がないのではないでしょうか? LCCの事をきちんと勉強したい人に最適な1冊です。