コラム

2021年11月26日  

今こそ正しく知っておきたい「放射性エアロゾル」

今こそ正しく知っておきたい「放射性エアロゾル」
東日本大震災が引き起こした災害の中でも、福島第一原発事故は衝撃的なものでした。当時私たちを心配させた「大気中の放射性物質」について、様々な書籍が発行されました。今回紹介する『空気中に浮遊する放射性物質の疑問25』は、日本エアロゾル学会の専門家たちがこれまでの議論や知識を踏まえ、Q&A形式でより簡潔でわかりやすい解説を行った書籍です。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『空気中に浮遊する放射性物質の疑問25』はこんな方におすすめ!

  • 大気中の放射性物質について知りたい方
  • 自宅でできる放射性エアロゾル対策について知りたい方
  • 人体への影響について知りたい方

『空気中に浮遊する放射性物質の疑問25』から抜粋して7つご紹介

『空気中に浮遊する放射性物質の疑問25』の中から、疑問をいくつか抜粋してご紹介したいと思います。放射性エアロゾルとは何か?といった基本的な疑問から、日常生活の中でどうやったら防ぐことができるのか、体の中に入ったらどうなるのかといったもしもの場合に備えて知っておきたい知識まで、幅広くご紹介します。

放射能やエアロゾルについて使われている単位は何?

放射能の単位・ベクレル(Bq):国際的な決め事であるSI単位系において、放射能(壊変率の大きさ)を表す物差しです。1秒間に1回原子核が壊変を起こす放射性物質の量を表します。壊変とは、原子核が不安定な状態から放射線を出して別の原子核または安定な状態の原子核に変わっていく現象のことです。
エアロゾルの大きさ・メートル:エアロゾルを球と考え、その直径をメートルで表します。エアロゾルは小さいので、マイクロメートル(1mの百万分の一。「ミクロン」とも呼ばれます。本書中ではそう呼びます)等の単位がよく出てきます。

単位を正しくイメージすることで、起こっていることをよりはっきりと理解しやすくなります。本書にはこれらの単位が頻出しますので、念頭に置いて読んでいきましょう。

単位を正しくイメージすることで、起こっていることをよりはっきりと理解しやすくなります。本書にはこれらの単位が頻出しますので、念頭に置いて読んでいきましょう。

放射性エアロゾルとは何ですか?

「エアロゾル」は、実は身近な存在です。生活用品では殺虫剤やヘアスプレー、煙草の煙もエアロゾルですし、霧や花粉、PM2.5もエアロゾルです。科学的に表現すると「空気中に微小な液体粒子や固体粒子が浮遊している分散系」のことです。

空中に投げ上げられたものが重ければすぐ地面に落下しますが、大きさが小さければ重力と落下に抵抗する力が釣り合ってゆっくりと落下します。より小さな粒子は、より長い間大気中を漂います。
自然に存在するエアロゾルは①もともと固体として存在したものが粒子として大気中に移行したもの(一時エアロゾル)、②気体が大気中の化学反応によって粒子になり、水分などが付着して大きな粒になったもの(二次エアロゾル)があります。気体中の化学反応には、宇宙線が働いています。

「放射性エアロゾル」とは、放射線を出す物質(放射性物質)が含まれたエアロゾルのことです。注目されるようになったのは人類が放射線を利用するようになってからのことですが、実は自然にも存在しています。一部は気体も存在しますが、大半が固体です。天然の放射性ガス・エアロゾルの中で最も大きな割合なのは、放射性ラドンとその壊変生成物です。

スプレーや花粉をイメージすると、「エアロゾル」がわかりやすくなります。放射性エアロゾルは実験や事故によって放出されるものだけではなく、自然界に存在するものもあるのですね。

どこで発生しますか?

放射性セシウムやストロンチウム、プルトニウムなどの人工放射性物質は、第二次大戦中の核兵器とその後の大気圏内核実験によって、相当の量が環境中に放出されました。これらの放射性エアロゾルは自然の放射性エアロゾルと同様に、大気中を輸送され、拡散し、雨などで地面や海に落ちていきました。雨によって落ちる量は、大気中の濃度と雨の頻度や量に比例します。

核実験では、放射性物質を含む高温の火の玉ができます。これは成層圏まで上昇し、吹き上がった物質のほとんどが放射性エアロゾルとして成層圏で漂います。これが降下し、ビキニ実験においてはいわゆる「死の灰」となったのです。この「放射性沈下物」が人工放射性エアロゾルの代表といえるでしょう。

また、天然の放射性物質の大気への放出も起こっています。天然放射性物質のほとんどは地中にありますが、これが地表に晒されることで大気中に放出されるのです。重要な放出源としては、石炭を燃やす火力発電所やごみ焼却炉が考えられます。しかし現在は厳重な対策が施され、被ばくの影響は十分に低減されています。

原子力発電所の事故による放出では、チェルノブイリ事故が代表的です。爆発の形態(原子炉本体の爆発があったかどうか)や、外気と核燃料が接して酸化が進んだかどうか、火災の続いた時間等によって放出される物質の種類や量も変わり、気象条件によっても拡散範囲が変わります。

原子力発電所の事故や核実験で発生した放射性物質は、それぞれの半減期の長さに従って、放射線を放ちながら存在し続けます。昔に起こった事故の影響が、今も続いているかもしれないのです。

どのくらいの距離を移動しますか?

放射性エアロゾルは、非常に長距離を輸送されることがあります。チェルノブイリ事故では、8000km以上離れた日本でも放射性物質が検出されました。大量に放出されたことはもちろんですが、空気が簡単には混ざらないので濃度がすぐには下がらないことも大きな要因と考えられています。

過去に発生した人工放射性物質が地表に残っていて、砂埃等に付着したものが風に吹き上げられる(「再浮遊」「再飛散)によって再びエアロゾルとなる現象も起こっています。再浮遊は、地球規模の放射性物質の移動を考える上で無視できない要素になっているのです。

放射性物質を高濃度で含む空気のかたまりを「放射性プルーム」と呼びますが、プルームはすぐに空気とは混じらないため、ゆっくりと広がりながら風に流されていきます。この流れは気圧の強弱と発生源の位置に応じた地上近くの風の流れで決まります。プルームの流れと雨雲が出会うと、放射性物質は雨によって地上に降り注ぎます。

放射性エアロゾルの大きな流れを知るには、地球の大気の動きを知ることも重要です。風向きや気圧で、汚染を受けやすい場所が決まるのです。福島の事故のときも、「ホットスポット」という言葉が注目されましたね。

吸い込んだものは体のどこへ行きますか?

吸い込んだエアロゾルは呼吸とともに鼻・口、気管・気管支、さらには肺深部へと入り込み、そこに沈着したりまた呼気とともに体外へ出ていったりします。体内に取り込まれた放射性エアロゾルは、内部被ばくの要因となります。

鼻先に付着したものは拭けば済みますし。鼻の奥から口にかけては粘膜の働きで除去が容易です。気管・気管支、細気管支、さらにその先の肺胞や肺嚢胞および結合組織が、被ばく線量を考える上で重要です。
吸い込んだ粒子がどこにどれだけ付着するかについては、粒子の大きさが特に重要です。粒子が小さければ肺に沈着する可能性が高くなるのです。また、口呼吸では鼻のフィルターが働かないので、より多くの粒子が沈着してしまいます。

放射性エアロゾルを大量に吸い込まなければ急性障害は心配なさそうですが、粒子の組成によってどんな影響が出るかは変わってくるようです。放射性物質の誤った利用による健康被害は人類の苦い教訓となっています。ラジウムの被害については、『ラジウム・ガールズ』と呼ばれる女性工場労働者たちの記録が残っています。

吸い込むと病気になりますか?

病気になる可能性はあります。実際、自然放射線源であるラドンは、肺がんの原因のひとつです。しかし、病気になるかどうかについては、吸い込んだ量に依存します。量の観点からみると、吸い込んだ放射性エアロゾルが原因で急性の放射線障害になる確率は非常に低いと考えられます。

病気になるかどうかは、化学組成にも依存します。エアロゾルを構成する物質が溶けにくかったり溶けなかったりする粒子であれば、呼吸気道内に留まります。この場合、エアロゾルからの放射線が原因で考えられる病気は肺がんです。溶けやすい粒子であれば、放射性であるかどうかは関係なく、エアロゾルを構成する物質が蓄積しやすい臓器に集まり、そこに影響が現れます。
内部被ばくからの発病事例として有名なのは放射性ヨウ素による甲状腺がん、ラジウムによる骨のがん、トリウムによる白血病等です。

放射性エアロゾルを大量に吸い込まなければ急性障害は心配なさそうですが、粒子の組成によってどんな影響が出るかは変わってくるようです。放射性物質の誤った利用による健康被害は人類の苦い教訓となっています。ラジウムの被害については、『ラジウム・ガールズ』と呼ばれる女性工場労働者たちの記録が残っています。

空気清浄機で取り除くことはできますか?

事故が起これば、風に乗って放射性物質を含んだ空気の塊(プルーム)が周辺の人家に飛来する可能性があります。事故が起きたとき自宅にいれば、窓を閉めて常時換気設備を止める必要があります。空気の流動を止めることが重要です。

室内に入ってしまったものに関しては、花粉やPM2.5の対策と変わりません。放射性エアロゾルの大きさは1ミクロン程度なので、花粉のように鼻先では除去されません。しかしこの大きさは、フィルターに非常に捕まりやすいのです。そのため、この大きさの微粒子に対応した空気清浄機であれば、放射性エアロゾルにも有効と考えられます。
活性炭フィルターがあれば、通常のフィルターに捕まらないガス状の放射性ヨウ素も除去できます。

PM2.5対策がそのまま有効とは、安心しました。粒子の大きさがポイントなのですね。微粒子の除去には静電気が大きく関わってきます。この仕組みを利用したマスクや衣服の詳しい対策も本書に収録されていますので、ぜひご覧ください。

『空気中に浮遊する放射性物質の疑問25』紹介まとめ

エアロゾルは、花粉もPM2.5も、放射性エアロゾルも、粒子の大きさは違っても「体に入れない」「落とす」対処はそれほど変わらないということがわかりました。しかし放射性物質が体内に入ってしまうと、内部被ばくによって人体は様々な影響を受けます。

放射性エアロゾルの成分や挙動のより詳しい説明や、日常生活の中でできる対策、また様々な領域で有効に使われている事例など、紹介しきれなかったことがたくさんあります。より詳しく知りたくなった方は本書をぜひお読みください。

人類が放射線を利用し始める前から身近にあった放射性エアロゾルは、大きな事故によって注目されるようになりました。性質や正しい対処方法を知ることで、恐れるべきところは正しく恐れ、利用するべきところはより活かしていくことができるでしょう。

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