コラム

2021年12月1日  

冬の主役、冷たくて不思議!:『雪と氷の疑問60』

冬の主役、冷たくて不思議!:『雪と氷の疑問60』
2021年もあっという間にあと1ヶ月となりました。この間まで半袖を着ていたような気がするのに、雪国からは次々と初雪の白瀬が届いています。雪の多い地方の方は、雪かきに悩まされる日々の始まりに気を重くされているかもしれませんね。一方普段雪の降らない地方の子どもたちは、珍しく雪が降ると大はしゃぎです。
今回解説するのは、そんな雪と氷について書かれた『雪と氷の疑問60』です。雪や氷の基礎知識から、様々な雪氷現象の謎、気象と雪の関係、雪の利用や雪害、南極や北極についてといった幅広い60の疑問に答えていきます。最後の章では、宇宙の氷についても解説していますよ。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『雪と氷の疑問60』はこんな方におすすめ!

  • 雪や氷について興味のある方
  • 樹氷などの雪氷現象を鑑賞するだけでなく、できる仕組みを知りたい方
  • 南極、北極について知りたい方

『雪と氷の疑問60』から抜粋して7つご紹介

『雪と氷の疑問60』の中から、疑問をいくつか抜粋してご紹介したいと思います。ここに紹介できなかった疑問では、積雪の種類やドライアイスの仕組み、海の氷の分類、北国で見られる様々な美しい雪氷現象、土中の水分が凍る凍土、雪まつりの雪像の作り方についてなど、内容が多岐に渡りますので、気になる項目があった方は是非本書をご参照ください。

雪の結晶はなぜ六角形なのですか?

雪の結晶は上空の雲の中で、水蒸気が昇華凝結してできた氷の結晶(氷晶)が成長したものです。おおむね0.2㎜以上のものを雪結晶、それ未満のものを氷晶といいます。雪結晶に限定すると、2013年時点では105種類に分類されています。

氷結晶の特徴は酸素原子が六角形を重ねた形に配列していることです。最初は小さな水滴だった過冷却水滴の表面の表面に多数の小さな平面が形成され、その後に六角柱の氷晶が生成されます。その氷晶が平面的に成長したり、長軸方向に成長したりして、雪の結晶はできています。平面と長軸のどちらにより早く成長するかは、温度によって異なります。そのために平板な雪結晶(板状結晶)や、六角柱(角柱結晶)の違いが生じることがわかりました。

雪の結晶の造形は、まさに「自然の美」の典型ですね。この雪の結晶の形の違いは、積雪と、その雪が辿る変化にも関係してくる非常に重要な要素です。
クリスマスが近づくと、六角形の雪模様をあちこちで目にします。実はこの雪の図案、尖った方と平らな方、どちらをてっぺんに持ってくるかはお国柄で異なるようです(関連するQ&Aが本書中にあります)。縦書き文化、横書き文化、紋章など様々な要素が重なって縦置き横置きの違いが現れます。

氷が滑るのはなぜ?

平らな氷の表面は滑りやすく、摩擦係数が小さいことは、スケートやカーリングなどを見ればわかります。しかし、氷はなぜ滑るのでしょうか?これについてはいくつかの説が発表されてきています。

圧力融解・水潤滑説:圧力を受けた部分の氷が融け、水が潤滑剤の役割を果たす
摩擦融解・水潤滑説:摩擦熱を受けて氷が融け、水が潤滑材となる
凝着説:水は関係なく、氷の基底面(氷の結晶は六角柱だが、その六角形の面)で摩擦係数が最少となるため滑る

また、氷と氷が触れる速度が遅いと摩擦が発生するが、速度が早ければ表面に水が発生して摩擦係数が少なくなるという説が2006年に発表されています。

凍った地面で転ぶ都会の人を見て雪国の人間がなんとなく優越感を覚える心境には覚えがあります。ここで解説された「氷が滑る理由」を踏まえて考えてみると、凍った地面を歩くときは「靴底の広い面で、擦らず、ゆっくり」がよさそう……?この冬に雪が降ったら、意識して試してみます。

つららにはどのような特徴がありますか?

つららは屋根に積もった雪が建物内部からの熱で融けて水になり、それが寒気の中で滴り落ちて作られます。実は、つららの多い家は屋根の断熱がしっかりできていないのです。最近の北国の家は断熱性が高くなり、まったくつららのできない家も珍しくなくなってきました。

つららの内部構造を見ると、中心に近い部分から放射状の結晶構造をしています。これは初め直径の細かったつららが、融解水が表面を流れ落ちることによって成長していった過程を示します。つららの表面に現れる波模様は、表面を流れる水の波立ちが関係しています。この波には、水中に含まれる不純物量が影響しているのではないかという説も発表されています。

最近「空き家にはつららはできない」という話を聞きました。つららができるには、家の内部と外部に温度差があり、それによって屋根の雪が融ける必要があるのですね。しかし最近の建築技術の進歩で、つららの有無では人が住んでいるかどうかを判断することは難しくなりそうです。

日本では、なぜ日本海側で雪が多く降るのですか?雪が降る気象条件を教えてください。

日本は雪の多い国ですが、比較的低緯度に位置します。低緯度にありながら雪が多く降る理由は、地理的な要因によるものが大きくなっています。雪が降るためには低温であること、水蒸気が豊富であることが必要です。大陸は海洋より冷えやすいので、より広大な大陸があれば上空の空気はより冷えます。ユーラシア大陸北方の冷えた空気が低緯度に流れながら偏西風によって東へ流れ、日本海を経て日本列島に到達します。日本海で大量の水蒸気を得て、雪を降らせる条件である、低温で大量の水蒸気を含む大気が完成します。この空気が日本海側と太平洋側を分ける脊梁山脈を越えるときに上昇して冷やされ、雲ができます。それが雨や雪を降らせるのです。

シベリアの寒気の温度と日本海の水温の差が大きく、風向が日本海を渡り日本に向かっていれば、日本海側が大雪となります。

ブログ担当は日本海側の雪の多い地方出身ですが、出身地の気温はそれほど低くはなりません。空気中の水分の違いが、雪の多少に関係しているということは実感していました。太平洋側と日本海側では、洗濯物の乾きが違います。風が日本海から湿気を運んできていたのですね。これが冬は雪になるのでしょう。

南極の氷からわかることは何ですか?

南極大陸は一部沿岸域を除いて、一年を通じて雪が降り、降った雪は融けないまま新しい積雪に押しつぶされて徐々に氷になります。その過程で、空気が氷の中に閉じ込められます。南極の氷は過去から現在に至るまでの雪と空気を保存している貯蔵庫です。南極の氷を掘削すれば、過去から現在までの雪と空気を取り出すことができ、過去の気候・環境や大気を研究することができるのです。

氷床や氷河から掘削された円柱状の氷をアイスコアと呼びます。アイスコアの分析によって、大気中の二酸化炭素量や火山活動の様子、地球外物質の飛来や気候変動のサイクルなどがわかります。

昔の雪がそのまま圧縮されて氷になった南極の氷には、当時の空気まで保存されているのですね。他にも、当時生息していた微生物などもそのまま保存されているため、生態系の分析などにもアイスコアは活躍します。
本書から南極・北極に興味を持たれた方は、『南極読本』『北極読本』をご覧ください。探検・観測の歴史と極地を取り巻く各国の関係、生物等の環境や観測の様子などが詳しくわかります。

雪崩とは何ですか?

雪崩の定義は、「斜面に積もった雪が重力の作用により斜面上を肉眼で識別できる速さで流れ落ちる現象」です。雪崩は大きく「表層雪崩」と「全層雪崩」に分けられます。表層雪崩はすべり面(破壊面)が積雪の内部にあり、それより上の積雪(なだれ層)が流下するもの、全層雪崩は積雪下底にすべり面があり、積雪全層が流下するものです。発生の形と雪質によって、より詳しく分けると8種類に分類できます。

災害報道でよくみられるものは、面発生乾雪表層雪崩です。低い気温の続く間、すでに積もっている積雪の上に数十㎝以上の新雪(乾雪)があった場合に起きやすく、斜面の広い面積にわたって動き、雪煙を伴って高速で落下し、大規模なものでは数km遠方まで到達します。一方全層雪崩は、春先の融雪期に起きる面発生湿雪全層雪崩が代表的です。斜面上方の積雪に割れ目ができ、積雪下底や地表面に水分が供給されやすい雨の日や温かい日に発生します。

表層雪崩を回避するには、積雪中の弱層を把握すること、谷ではなく尾根を進み、できるだけ斜面は横切らないことが重要です。全層雪崩はゆっくり動くため、雪に割れ目やしわが現れます。これらを見逃さず、前兆の出た斜面には近づかないことで回避できます。

スキー場に行って斜面を見上げると、なんとなく心配になってしまいます。現代では撮影技術の進歩によって雪崩の全貌を映像で見ることができるようになったため、私たちは雪の降らない地方にいてもこの災害について知ることができます。大自然の驚異を予測して避けられるようになるには、こうした映像によって一般層にも知られることも重要ですね。

火星の南極・北極の白く見える部分は何ですか?

火星の両極には白く輝く極冠があります。火星の大気は二酸化炭素が95%で、水蒸気(H₂O)は僅か0.03%です。平均気温は-48℃です。北極は夏には-50℃くらいまで気温が上がるので、ドライアイス(二酸化炭素の)の氷では溶けてしまうため、H₂Oの氷でできていると考えられてきました。一方南極は気温が低いので、ドライアイスも存在できます。

2000年代に入ってから、探査機による観測で、極冠の氷の構成がわかりました。基盤岩の上に厚さ2~3kmのH₂Oの氷が存在し、その上を2~3mのドライアイスの氷が覆っていたのです。

大気中にはH₂Oが微量しか存在しないのに、火星の極部分には厚い氷の層があるんですね。近年探査・観測技術の大幅な進歩によって、火星の映像も見られるようになりました。氷(水)が存在するということによって、火星がぐっと身近になった気がします。

『雪と氷の疑問60』紹介まとめ

ブログ記事担当は日本海側の雪国出身ですが、知っているのは粒が大きくてすぐ融け、翌朝凍ってしまう雪でした。積もるとすぐにシャーベットのようになってしまいます。北海道出身の友人と話すと、向こうの雪はさらさらの粉雪ということでした。

この本を読んでみて、雪国育ちといえども結構知らないことが結構あったことに気づかされました。「雪まくり」をはじめ、見たことのない雪氷現象も沢山あります。
雪が降ったとき「電車が止まるんだろうな……」と憂鬱になるだけではなく、少し楽しい気分になれそうです。

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