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2010年12月10日  

著者へのインタビュー【赤井謙一さん】

著者へのインタビュー【赤井謙一さん】
特徴ある砕氷船をもっともっと身近に感じてもらいたく、この本を書きました。

赤井さんについて教えていただけますか

私は、船舶工学を専攻したため日本鋼管(株)に入社し、そこでいろいろな船の設計を行いました。その後、本社で船の基本計画の仕事をしました。扱った船はいろいろありますね。最近の造船所はつくる船を特化しているようですが、昔は様々な船にかかわれたので、勉強になりおもしろかった。 VLCC、バルク、重量物運搬船、自動車運搬船、海上保安庁の船、マグロ漁船などいろんな船の設計に携わって幸せでしたね(笑)。砕氷船も外国から引き合いがあった。でも、砕氷船は政府関係の船が多く、その国の造船所からの海外発注に対する反発が強かったため、受注するのが難しかった。

思い出に残った船はありますか?

初めて関わった船種は思い出にのこりますね。カナダの砕氷型サプライ ベッセル、6500台積み自動車運搬船というのをやったのが特に思い出に残っています。でも、船はそれぞれ船種ごとに特徴があるので、どれも思い出深いですね。

船の設計をやろうと思ったきっかけは?

父親が日本郵船に勤めておりまして、当時、横浜に住んでいたんです。船が入ってくると、見に行き、実際に父親が乗っていた船のなかに入れてもらったこともありますね。横浜に住んでいた関係で船が身近であったし、父親が船乗りであったため、その影響があり、それが今の仕事をやるきっかけになりました。

「世界の砕氷船」を出版するきっかけを教えていただけますか

現役時代に砕氷船技術関係で連絡を取りあっていたロシア人の研究者が、自著の「船舶の氷中航行性能」という500ページくらいあるロシア語で書かれた本を送ってくれました。退職後それを翻訳して、御社(成山堂書店)に持ち込んで、「翻訳出版の意志はないでしょうか?」って聞いたんですよね。そしたら、「こういう本はなかなか売れない。もしやるとしても1冊3万円くらいになるから買う人はいないだろう」ということになりました。そしたら、そちらから、「砕氷船についての本を書いたらどうか?」という逆提案がありまして、書くことになったんです。

逆提案されてどう思いました?

砕氷船の設計をやっているときから、ロシアや北欧の砕氷船のいろいろな論文を読んでいて、資料ももっていたので、それを基に書こうと思いました。

本の内容についてお聞かせください

砕氷船っていうと、普通の船と違って氷のなかを走るという特徴があるんです。普通の海を走るだけでも風浪があって大変なのに、さらに砕氷船の場合は氷を割る能力が必要となります。それに対応する構造、どういった推進方式にするとか、氷から船体を保護する手段、低温のなかを走るということも考えねばなりません。そういったところが普通の船とは違うところですよね。砕氷船は力があればいいというわけではない。ただ進んで割るというわけではなく、一度後進してから前進し氷を砕くこともあるので、船首の形状が大事になってくる。また、氷に乗りあげないようにもしなきゃいけない。そういった、砕氷船特有の構造などを中心に世界の砕氷船についてまとめました。

執筆中のエピソードを教えてください

交通研究協会の青木先生に読んでいただいて、いろいろコメントいただき、「こうしたほうがいい」などのご指摘をもとに書いたので、良い本になったと思う。自分だけで書くと技術的な本になってしまい、難しくなってしまう。

書き終えた瞬間、どうでしたか?

今まで技術者として船に関係してきたので、そのまとめができたという気持ちがあり、すごく達成感を感じました。それもこれも成山堂書店さんのおかげです(笑)

この本にはどんな思いを込めて書かれましたか

砕氷船は特殊な船なので、その特徴を一番に考えて書きました。例えば、船は、エンジンを冷やすのにシーチェスト(海水取入箱ともいう)から海水を取り入れねばなりませんが、氷の中を航海する船の場合は、一般船並みのシーチェストでは、氷のなかを走ると、すぐに氷が詰まり、エンジンが止まっちゃうんです。そういうことって、実際に船を運航してみないと、気づかないんですけど、そういうことも書きました。
プロペラも普通の船とは違い、氷片が当たるので、壊れやすいんです。プロペラ翼が強すぎると推進軸が壊れちゃうんです。推進軸が壊れると交換が大変なので、そうならないためにも、プロペラ翼が先に壊れるようになっている。このような砕氷船でなければ、考えないようなことも書いています。氷という硬いものを割って走る船なので、普通の船とは違うよということを中心に書きました。

最後に読者の方へのメッセージをどうぞ

船にはそれぞれの特徴がありますよね。砕氷船は氷のなかを走るという特徴があるので、その辺りに関心をもっていただければ嬉しいです。船に乗っている方にも読んでもらいたい。造船に携わる方がたにも、北極海航路が話題になる時代なので、砕氷船というものに興味をもってもらえると嬉しい。
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